呪いの時代

呪いの時代 (新潮文庫)

呪いの時代 (新潮文庫)

■あらゆる階層社会では、「この社会システムはアンフェアだから努力しても報われない」と思っている人々が社会下層を形成し、「努力すればそれなりの成果がある」と信じている人々が社会上層を形成する。必ず、そうなります。
努力することへのインセンティブを傷つけることが社会的差別のもっとも邪悪かつ効果的な部分なのです。
「努力しても意味がない」と、自分自身に呪いをかけるよう仕向けることが、格差の再生産の実相なのです。

■具体的な身体に根ざした嫉妬であれば、できることは限られています。六条御息所が自らの手で葵上を殴りつけに、「うわなり打ち」に行くなら、葵上の被害はせいぜい打撲傷程度で済んだはずです。でも、六条御息所は嫉妬を自分の固有名、固有の身体において引き受けることを拒絶した。だから、嫉妬は記号になって、空中を飛んで人を取り殺した。逆説的なことですが、固有名をもった、固有の身体に根ざした憎悪や嫉妬はそれほど致死的なものにはならない。個人の身体を離脱して、記号だけの抽象物になったときに、呪いは強力なものとなります。

記号的に表象された敵に対して、記号的に表象された暴力が加えられる。記号的な暴力にはほとんど制約が課されません。

■就職情報産業=「どのような仕事に就いても、『これがほんとうに私の天職なのだろうか』という不安から消して自由になれない人々」を量産することによって利益を上げるビジネスモデル。(婚活も同様)

■ランダムに見える事象の背後に一定のパターンを見出そうとする知的努力によって人はまっすぐに科学と宗教に向かうのです。(結婚は配偶者に対して常にその努力を行うため、そういった能力を開発し、結果、人間的な成熟を促す=「他者との共生能力」)

■強者連合に属する人は、他のメンバーから学校、職業、家、結婚相手等、生き方全般に細かい条件を付けられており、自己決定権がない。自己決定権を放棄し、帰属集団の期待に応える代償として、豊かな資源配分に与っている。彼らを羨む人は、「強者連合」への帰属ゆえに「自己決定できない」ことを見落としています。共同体への奉公と豊かな資源配分とはトレードオフされているんです。

■常に厭なことが起こる環境にいると、ふつうの人は厭なことを察知するアラームを切るということをする。その時、生命の危険をもたらすことがあれば致命的で、効果的であるだけにリスクが多い。アラームが頻繁に鳴る状態に長くは耐えられず、アラームを切ると、とんでもないことが起きる(ことがある)。気をつけましょう。

■私は人間に個性があるとすれば、それはその人の「金では動かない仕方」において端的に示されると考えている。「金以外の何を優先的に気遣っているか」。