世界SF全集 10

素晴らしい新世界(ハックスリイ)
「男も女も一年間にいくらと言った具合に消費を強制された。産業の利益のために。その唯一の結果は······」
「つくろうより捨てる方がましだ。一針ごとに富が減る。一針ごとに富が減る······」

哲学とは、人が本能的に信じることに下手な理屈を見つけること(ブラッドレー)。


1984(オーウェル)
◾何故ならばもし誰も彼も余暇と安定を享受できるとすれば、通常は貧困の為に鈍化している大多数の人間が読み書きも出来るようになり、自分で考える事も覚える様になるであろう。しかも一旦そうなれば、彼らは遅かれ早かれ少数の特権階級が何らの職能も持たず、彼らは一掃できると悟るに相違ないからだ。結局のところ、階級制社会というのは貧困と無知に基づいた場合だけに成立し得るものである。
◾商品は生産せねばならぬ、が、分配してはならないのである。更に実際問題として、これを達成する唯一の方法といえば、継続的な戦争状態しかあり得なかったのである。
戦争の本質的な行為は必ずしも人命の破壊に在るとは限らず、寧ろ労働による生産品を破壊することに在ると言える。
原理的にいえば、戦争努力は常に民衆の要求をぎりぎりに充足させた後に残る余剰の全てを消費すべく計画されるのである。
◾戦争は各支配グループが自国内の民衆に対して行っているのである。更にその戦争目的は領土の征服を行うのでも、阻止するのでもなく、ただ社会構造の温存を計る為に過ぎない。従って、“戦争”という文字それ自体が誤解を招く事になる訳だ。恐らく戦争は継続化する事によって存在し無くなったといった方が正確であろう。
◾最高の書物とは、読者に分かりきっていることを語ったものだと彼は悟ったのである。
◾人類の記録が残存する全時代を通じて、即ち恐らく新石器時代の末期以降、世界には上層、中間、下層と三種類の人間が存在してきた。
◾上層集団の目的は現状維持であり、中間集団の目的は上層と入れ替わることである。
長期間に亘って、上層集団は安全に権力を握っているかに見えるが、然し必ずや遅かれ早かれ、彼等が自信乃至は効果的な統治能力、或いはその両方を失ってしまう時期がやって来る。その時、彼等は自由と正義の為に戦うと見せ掛けて下層集団を味方に付けた中間集団によって打倒される。目的を達するや否や、中間集団は下層集団を元の隷属的な状態に突き戻して、自らは上層集団に成り代わる。間もなく新しい中間集団が、上下集団の孰れか、或いは両集団から分裂、派生して先の闘争が最初から再開されるのである。
◾下層集団(重労働で余りにも押し潰されている為に、日常生活以外の事は簡獗的にしか意識できないというのが変わらぬ特性)の見地に立てば、如何なる歴史的変化も、親方の名前が変わったということ以上の大きな意味合いは持たなかったのだ。
◾支配集団が権力の座から滑り落ちるには四つの途しか無い。外国勢力に征服されるか、無能な統治が民衆を反抗に駆り立てるか、強力で不平満々の中間集団が権力の座に就く事を許すか、自ら統治の自信と意欲を喪失するかである。
◾少数独裁支配の本質は父子相続ではなく、死者が生者に課する特定の世界観、特定の生活様式を持続させる事である。支配集団は後継者を指名できる限りに於いて支配集団である。党は血統の永続化ではなく、党自体の永続化にしか関心を抱いていない。誰が権力を恣にしようと問題ではないのだ、階層制構造が常に同一で有りさえすれば良いのである。