腎臓が寿命を決める

◾腎臓は「生体内の状態を一定に保つ」。
◾血液中のリンが少ない動物ほど寿命が長い。
◾リンを体内から排泄して調整しているのは腎臓。
◾高性能の腎臓を備えている動物ほど長生き?
◾「リン=老化加速物質」
絶対に欠かすことはできないが、摂りすぎると腎臓の機能低下、血管トラブルや慢性炎症を引き起こすようになり、老化加速の大きな原因となる。
◾「不要なものを排泄する腎臓の力」の衰え=老化を早める

◾腎臓の働き
体の中の「必要なもの」と「不要なもの」を仕分けして、血液や体液の成分バランスを調整。腎臓に集まってきた血液を濾過しながら、「必要なもの」は再吸収し、「不要なもの」はそのまま尿中に排出して、体内環境を一定に保つ。言わば、血液をはじめとした人体内の体液成分を常に一定に保つ「管理人」。
血圧の調整、ビタミンDの活性化、造血ホルモンの分泌なども、各臓器とネットワークを構築し、逐一連絡を取り合いながら行う。
◾腎臓は「血液をきれいにしている濾過装置」。この濾過機能の主役「ネフロン」。「糸球体」と「尿細管」とで構成。人間にはこのネフロンが平均ひとつの腎臓で約100万個、ふたつで約200万個あるとされるが、かなりの個人差があり、少ない人は腎臓ふたつで50万個、多い人は腎臓ふたつで300万個、多い人少ない人で10倍近い差があると言われる。数の開きの理由は、遺伝要因もさることながら、出生時の体重が関係すると言われている。
◾「ネフロンは消耗品」。加齢とともにじわじわ減少。60代70代になると20代の半分程度に減る。一度減ったネフロンは回復再生不可。

◾FGF23「リンを体外に出すためのホルモン」
クロトー遺伝子「FGF23を受け取るための受容体」
老化加速は「FGF23とクロトー遺伝子のリン制御システム」が正常かどうか。
「リンこそが老化加速物質なのではないか」。

◾ネフロン数の減少による「腎臓の老化」が、慢性腎臓病の素地となる。それに加えて糖尿病や高血圧などが「腎臓の老化」を加速させることで慢性腎臓病を発生させるケースが非常に多い。現時点では「糖尿病や高血圧の治療」が慢性腎臓病の治療の基本。進行すると、最終的には血液濾過が十分にできなくなり尿毒性、透析か腎移植をしないと生きていけなくなり、この状態を「腎不全」と呼ぶ。
◾「クロトー欠損マウスも人工透析の患者さんも、体内にリンが貯留しているために同じような症状が現れている」可能性。
◾クロトー欠損マウスの場合、リンがたまらないようにした途端、老化加速症状がぴたりと治る。「人間もそうすれば慢性腎臓病がらみの症状や疾患を治せるのでは」。
◾リン制御による慢性腎臓病の治療研究
リン摂取制限やリン吸着薬の使用により、体内に入るリンの量を減らすことが人間の慢性腎臓病の治療にも有効であるという確信を得ることができた。

◾リンとカルシウム(結びつくとリン酸カルシウム)は骨のつくり替え工事ための「いつでも固められる工事用セメント」のようなもの。骨以外のところでリン酸カルシウムが析出(液状だった物質が結晶状や個体状になって現れること)すると、その組織(血管や細胞)に石灰化(硬直化)が起こり、機能低下して不調や病気が発生し、老化が加速する。
◾リン酸カルシウムは普段はたんぱく質と結合してコロイド粒子のかたちで、血中を移動。リン濃度上昇の結果発生する「リン酸カルシウムのコロイド粒子」=CPP(Calciprotein particle)。このCPPが健康被害を引き起こす“実行犯”であり、「治療標的」。

◾「水に溶けない2大物質」脂、リン酸カルシウム。たんぱく質とくっつくとCPP、リポたんぱく(HDL、LDL)。貯蔵先は骨、脂肪細胞。貯蔵先からあふれると動脈硬化(血管石灰化)·老化、動脈硬化(粥状硬化)脂肪肝

◾FGF23やクロトー遺伝子が正常に働いて日々リンを体外に排出できていたとしても、リンを大量に摂取し続けていたらいずれ尿細管が悲鳴をあげることに。
◾加齢によるネフロン数の減少が、リンの過剰な摂取によって加速され、腎臓の老化が加速し、放っているうちにさまざまな病気や老化加速症状が発生するようになってくるーー慢性腎臓病は、リンが原因の早老症なのです。
◾FGF23が53pg/ml(ピコグラム·パー·ミリリットル)を越えると、その人が5年後に人工透析になったり血中リンが上がったりする確率が高くなることが判明している。
◾FGF23を指標に、初期や中期の段階からリンを減らすようにブレーキをかけていけばよい。
◾だから、リンという「火」は血中リン濃度が上がってから消すのではなく、FGF23や尿中リンの値が上がってきた時点で消しにかからなくてはならない。血中リンではなく、FGF23や尿中リンを目安に消火活動をしていけば、「腎臓を守れる」「透析も避けられる」といった多大なメリットが得られるはず、というのが私の研究の結論です。ただ現時点では、この考え方は普及しておらず、血中リンの値が上がって火の手が大きくなってからしか消火(リン吸着薬)してはいけないという決まりができてしまっているーーそういう現状があるわけです。
◾リン吸着薬の適応症を「高リン血症」から「高FGF23血症」へと拡大すれば、慢性腎臓病の進行を送らせることができる、という事実を証明する治験を実施することは私の夢です。

◾日本で普通の食生活をしている人は、「食品から入るリン」と「添加物から入るリン」を合わせて、だいたい必要量の3倍くらいのリンを摂っている。
◾加工食品、カップラーメン、スナック類、ファーストフード、スーパーやコンビニのお惣菜など、添加物の使用量が多いものを普段からよく食べている人は、たぶん必要量の5倍くらいのリンを軽く摂取しているのではないか。
◾「有機リン」
肉類、魚介類、卵、乳製品、野菜、穀物など。含有量はたんぱく質含有量に比例することが多い。ただし、体内への吸収率は20~60%と食品によってかなり違いがある。
動物由来(肉、乳製品等)は吸収されやすく、植物由来(野菜等)は吸収されにくい。
「大豆」はリンが多いとされているが、人間の腸から吸収されない「フィチン酸」というかたちで含まれている。
·摂りすぎ注意!
肉(高含有量·高吸収率、特に赤身肉)、牛乳、プロセスチーズ等乳製品、骨ごと食べる小魚·魚卵·ナッツ類·ソバ·ラーメン(毎日大量摂取でなければ気にしなくてよいかも?)
◾「無機リン」
食品添加物。加工肉、干物や練り物(水産加工食品)、スナック菓子、インスタント麺、ファーストフードなど、ほとんどの加工食品に含まれている。体内への吸収率は90%以上。
·リンが使用されている添加物
リン酸塩(Na)、メタリン酸(Na)、ポリリン酸(Na)、ピロリン酸(Na)
かんすい、酸味量、香料、乳化剤、ph調整剤、強化剤、決着剤
·食品表示法の「抜け道」
「一括名表示」。何種頼もの添加物を一括名で表示。その中にリン添加物が入っているケースが非常に多い(香料等)。
「店内で製造·加工した食品」にはその成分を表示しなくてよいことになっている(スーパーの惣菜·弁当等)。
パッケージが小さくて成分を表示しにくいものには表示しなくてよいことになっている(コーヒーフレッシュ等)。
◾「食品添加物カットによるリン制限」
食品添加物が多そうなものはなるべく食べない」「食品添加物が多そうなものはなるべく買わない」戦法をつらぬく。
食品添加物を減らす
·「元の素材がわかる食品」を買う(野菜·きのこ·果物等)
·「とんでもなく日持ちするもの」は買わない
食品は腐るのが普通。保存料·防腐剤など多くの添加物がつかわれている可能性。
(ただし、缶詰めは心配ないかもしれない。空気に触れないように中身を密閉して詰めてから高温高圧の蒸気で完全滅菌しているので、長期保存しても腐らない)
·「いかにも着色料を使っていそうな食品」は買わない
·なるべく手作りのものを食べる
·値段が安すぎるものには注意する
·「○○料」「○○剤」という表記の多いものは買わない
一括名表示されている成分のどこにリン添加物が混じっているか分からない。
◾リンをコントロールしていけば、みなさんのアンチエイジングの力は自然に高まっていくでしょう。食品添加物を抑え、リンを抑えて、この先の人生の流れを変えていきましょう。

◾骨量低下防止の治療手段は「運動」
わたしたちの骨は、体の重みや運動刺激というプレッシャーがかかることによって丈夫に維持されるようにできている。ほねというそしきは、荷重ストレスが増すと、そのプレッシャーに負けないようにと、リンやカルシウムを蓄えて丈夫になっていく。
◾運動量や活動量が極端に少ないと、宇宙とたいして変わらないくらいのハイスピードで骨が衰える。骨に対する刺激が少なく、骨量低下とともにリンやカルシウムを骨から溶け出させてしまい、骨粗鬆症や慢性腎臓病を進行させてしまう可能性が高い。
◾体を動かすことが「リンを骨に封じ込めること」につながる。宇宙環境でリンやカルシウムが溶け出すのは、体を動かさずともよくなって硬い骨が不必要になったから。「動く」という必要がなくなると、リンもカルシウムもどんどん“家出”してしまう。
◾体を動かさないと、それを合図に骨からリンやカルシウムが溶け出し、骨と腎臓が衰えて、みるみる体が老化。
◾リンとカルシウムはわれわれの体内において非常に不安定な状態で保たれている。リン酸カルシウムとしておとなしく骨に吸収されている分にはまったく問題ないが、ひとたび血中に溶け出すと、極めた危険な存在に変貌。骨を出たリンとカルシウムは、いつ骨以外のところで結晶化してもおかしくないような状態で血液中や細胞外液中を漂うようになる。そして、腎機能が低下して血中リン濃度が上がってくると、結晶化したリン酸カルシウムがCPPを形成し、血管石灰化や非感染性慢性炎症などの悪さを働くようになる。
◾わたしたち陸上で生きる生き物は、リン酸カルシウムの硬い骨を得る代わりに、その骨の構成成分であるリンによって老化し、リンによって衰えていくという宿命を背負ってしまった。
◾「体内のリンを一定に保つ」というFGF23の仕事は、腎臓を犠牲にしてもやむを得ないくらいの重要任務だということなのでしょう。「体内のリンを一定に保つ」というメリットと、「ネフロン数が減る」というデメリットの究極の選択、つまりトレードオフがみて取れる。
◾骨と腎臓が老化を管理
FGF23は骨から分泌され、その排泄指令を受け取るクロトー遺伝子は腎臓にある。リンの制御システムは、この骨と腎臓のやり取りによって維持されていると言ってもよい。
この管理コントロールシステムが立ち行かず、リンの恒常性が維持できなくなった際に現れる不調が「老化」。
◾「動くこと」には骨、「食べること」には腎臓が不可欠。
◾「体をろくに動かさない生活」が骨や腎臓を弱らせ、「食品添加物の多い食生活」が腎臓を弱らせる。

◾今回の研究では、「リン酸カルシウムの骨を持つ高等脊椎動物」にのみ特有な老化加速因子を見つけることができた。これらの動物では、リンを抑制して腎臓の負担を減らすことで、老化の進行を抑えていけることが明らかになった。