株式会社化する日本

 

株式会社化する日本 (詩想社新書)

株式会社化する日本 (詩想社新書)

 

現代日本の秀才たちは、「査定が正確で、入出力のタイムラグがないシステム」を偏愛しています。

 

統治システムは楕円のように焦点が二つあるほうが安定するのではないか。氷炭相容れざる水と油のような二つの政治原理が拮抗しているような統治システムのほうが、単一の原理で貫徹している統治システムより柔軟で安定的だと思うようになってきました。どう考えても、天皇制と立憲デモクラシーは原理が合わない。でも、歴史を見ると、天皇制は様々な政治制度と共生できてきた。

日本国民の道徳的なインテグリティを担保している存在が総理大臣とは別のところにいる。それによって国民の心理的な安定が図られているのではないか。

アメリカの独立宣言は「神の名」、フランスの人権宣言は「宇宙の至高の立法者」の名において。どこでも、地上的な権力者を超える、何か超越的なものを自分たちの統治機構の正統性の保証人として呼び出している。

二つの統治原理をうまく折り合わせるという宿題を解こうと苦しむことは間違いなく日本人の市民的成熟にとっては有益です。

 

安倍さんが長期政権を保持できているのは、株式会社をすべての組織の原型と考え、政治家を株式会社のCEOだと考える「ある特異な時代」にジャストフィットしたからだというのが僕の考えです。

安倍さんが社長で、自分たち国民は従業員だと思っている。卑屈な「従業員マインド」と対米外交における卑屈な「属国民マインド」とが、本当にみごとにブレンドされていって、いまの日本の有権者たちの気分というものを形づくっている。

 

人間の身体という限界を外したことによっていま資本主義経済は延命している。金融経済を回すために人間が犠牲になっている。マルクスが「疎外」と呼んだ状況です。資本主義の末期的な症状が表れてきた。

 

「カネでカネを売り買いする」金融経済が行き詰まったときに、成長論者たちが選ぶのは、「戦争を始める」「兵器をつくる」というところしかない。

戦争は、人間が「それなしでは生き延びられないもの」を破壊する。上下水道、鉄道、道路、通信網、医療機関、学校。戦闘終了後、膨大なニーズが発生。素晴らしいビジネスチャンス。

兵器は「兵器を破壊すること」を主務とする異常な商品。市場に投じられるほど、破壊される兵器が増え、需要が生まれる。「市場が飽和しない」「夢の商品」。戦争が起こらずとも、アップデートを必要とするよう開発すればOK。

人間にとってまったく幸福な話ではありません。