陰陽師 5

 

陰陽師 (5) (Jets comics)

陰陽師 (5) (Jets comics)

 

おいおい 博雅 行者というのはだな・・・・・・

その人 そのものの人間・・・いや

魂の形成の段階で 足りないものがあるから 行や苦行をするのだ

まだ 完成 しとらんのだ

だから 行者の奇行を伝える話には 耳を貸すな 黙って苦行をさせておくのだ

それが 未完の者どうし お互いの心遣いというものだ

行をするしない 呪を知る知らないに 基本的差はない

それぞれ やるべきことを やっているだけだ

 

信用できる者など めったにおらんからな

だいたい行者 術師 法師と名乗る者ほど 胡散臭いものはないぞ

おれも含めてな

頼む者の 思い込みを利用して 相手を騙す 盗賊の輩よ

坊主とて 信用はできん

たとえ 鬼を使役できようが 法術をつかえようが

所詮はヒトだ 生臭い者は生臭い かといって否定もできぬ

そのレベルでは 必要な存在だからさ そんなものだ

 

依頼主の前で たとえ 生まれてこの方

見たこともないようなものを見たとしても

驚いたふうを 表に出してはいけぬ

おれは そう 師匠に 叩き込まれた

それは 陰陽師の エチケット だよ

それにな おれが常に クールなのは 職業病だ

悪鬼悪霊鬼神に向かう時には 敵であっても 味方であっても いかんのだ

こちらの心の動揺は 向こうの動力源となる

祭文を読む時も 同じよ

必ず我が願いかなえたしとか 必ず調伏せむなどと力(りき)こめるのは

かえって危険なのだ

まして 情なぞかけたら 向こうの思うツボよ

相手(オニ)の力が施者(こちら)に勝れば 相手に引き込まれ利用される

逆に 相手(オニ)が弱ければ 施者(こちら)自身の生み出す

妄想にふり回されかねん

もともと祭事とは

これこれこういう祭りをするから ここんとこ何とかしてくれ

ここんとこは まあ おさええてくれ という

人智を超えた力に対する 契約のようなものなのだ

こちらの 思いどおりに 事を運びたいなら

神も含め 鬼神 悪鬼悪霊に対する時

この身は 常に ニュートラルに しておかねばならん

可でもなく不可でもなければ

たとえ周囲でどのような事象が起ころうとも

我が身は風のように 自由でいられる

これはな 鬼神を使役し闇を掌握せむとする陰陽師の 鉄則というものぞ

おれはハト派閥だパンクじゃない

おれとて 命は 惜しいぞ

 

おれにとって 周囲に起こる事象はな

すでに すべて必然なのだよ博雅

偶然起こる ものなどない

何かをしようとして または どこかへ行こうとして 滞った場合

それはおれが行く必要がないか おれが手を出すと困る者がいるか どちらかだ

そういう時は 身を鋭敏にして 注意深く事を進めることにしている

ムダな行動は 省きたいのでな

ただな 博雅

忘れちゃいかんのは 自分も 他の誰かにとっては

事象の一部であるということだよ

おれがムダと知りつつ 動いたことによって

ボロを出す者もいるわけさ

面白いだろ?

 

つまりな・・・・・・時々おれはとてもひかえめに本当のことを言うのだが

人はお立ち台の上のギャルのように

わかりやすくて声の大きなもののあとについて行ってしまう

そういう者たちは たぶん おれの言っていることより

智徳などが大声で言っていることの方が わかりやすいのだろう・・・・・・

そんなことを 思った時だよ