教皇ヒュアキントス

窓辺に寄り掛かったまま、この青い月の霧の中へ、この滴と芳香と静寂の中へ、身を投げてしまいたくてたまらないと思っていた。天国の深淵に散らばる星々が揺れ震えているかのようではないか。ヴァーグナーの曲であろうと、あるいは星明かりの名歌手たる聖なるシューマンの曲であろうと、どんな音楽がこの大いなる静寂と比べられようか。この、人の魂の中で歌う声なき大演奏会と。

輝く夜の虚空を作ろうとするように、これらの音も耳に聞こえる静寂を作り上げた。

『ことばの美学』
「人間が「ディオニュソス的(感情的・空想的・ロマン主義)」な気分にあるときには、ことばは一つの叫び、ときには呪い、せいぜいましなところで成就しがたいものを求める祈り、となります」
「もう一つの用法」「自己でないもの、自己の内部にあるべきではないものを客観的に眺める立場に立つことができ」「〈読者〉は好みのままに、自己の世界を改造する手助けをことばから得ることに」なり「このとき、ことばは「アポロン的(意味的・構造的・古典主義者)」と呼ぶにふさわしい」
ヴァーノン・リーの幻想小説ディオニュソス的雰囲気であるが、叫ぶように言葉を発し、成就し難いものを求め祈る者たちは、皆、破滅していく。ヴァーノン・リーはそれをアポロン的な構造と言葉で描いているということだろう。