からだにはココロがある

◾私は肩甲骨、肩関節、鎖骨のある部分を「肩包体(けんぽうたい)」、肋骨のある部分を「肋体」と呼んでいますが、多くの人はこの肩包体と肋体の間の筋肉が固まっています。
今のイチローはそれぞれ分離独立させて使っており、二つの部分を分離させる曲面上の意識ができているのが感じられるのです。私はこの意識に「肩包面」という名をつけています。肋骨の部分は肋骨の部分として、その上に乗っている部分はその上に乗っている部分として感じることができる意識です。
腸腰筋ハムストリングスは、股関節をはさむ拮抗筋同士なのです。人間のすべての関節には拮抗筋があります。脳神経系には、拮抗筋の関係にある二つの筋肉のうち、片方が使われるともう片方が刺激される、というしくみがあります。ということは、ハムストリングスがよく使える世界のトップスポーツ選手たちは、腸腰筋も使えるということ? とここで気づかれた人は素晴らしい。正解です。
◾私が「達人の筋肉」と呼ぶほど腸腰筋が優れた動きをもたらすのは、その位置にも理由があります。腸腰筋は人間の身体運動の中で最も強力な働きをする股関節と体幹の中心である腰椎と胸椎につながっています。大腿直筋も膝から股関節をはさみ腸骨までつながっていますが、体幹の中心にはつながっていません。腸腰筋体幹の中心につながっているということは、全身の重心のすぐそばにあるということです。つまり、重心を中心にした動きをしやすいのです。
◾また、腸腰筋は外からは見えない筋肉で、その動きが相手に読まれにくいので、サッカーや武道、格闘技の世界では、ここを使う動きはきわめて有効です。
◾また、腸腰筋は、センターとも重なっていますから、腸腰筋が働くことでセンターが強化されると同時に、腸腰筋もセンターにコントロールされやすくなります。腸腰筋とセンターは双方向で密接な影響関係にあるのです。
丹田ができると腹式呼吸ができる
さらに、丹田によって腸腰筋が使えるようになると、腰椎で腸腰筋と重なりあっている横隔膜という筋肉が、腸腰筋と連動して働くようになります。横隔膜は腹腔と胸腔の間にある膜状の筋肉で、これを上下させると腹式呼吸になります。つまり、丹田があると、腸腰筋と連動して横隔膜が働き(これを横腸腰連動と呼ぶ)、腹式呼吸をしやすくなるのです。
丹田ができると腹式呼吸(胸式呼吸に比べて取り入れられる空気の量が多く、呼吸の回数がすくなくてすむ)をしやすくなり、常に精神が安定し、よりよい身体の状態を保てるようになります。
◾横隔膜は胸腔と腹腔を分ける膜状の筋肉で、胸側の肋骨の下線からドーム状に広がって、背中側は腰椎につながっています。ということは、腰椎で腸腰筋と重なっているのです。同じところに付着する筋肉でも鍛えると別々に使えるようになりますが、普通は同じところに付着する筋肉は連動しますから、腸腰筋が働くと横隔膜も働きます。
丹田腸腰筋と横隔膜を刺激する
丹田があると、効率のよい脚の引き上げを担う腸腰筋と、腹式呼吸を担う横隔膜が使えるようになる。
◾胸式呼吸は胸郭を広げることで肺に空気を入れ、腹式呼吸は横隔膜を押し下げることで肺に空気をいれる。腹式呼吸の方が、一回の呼吸で出し入れする空気の量が多く、能率がいい。
◾横隔膜は内蔵と内蔵の間にあるので、これが上下すると、あたか非常に大きな手で内臓がマッサージされるようになります。だから腹式呼吸の練習をして、横隔膜が使えるようになると、内臓が元気になって、あきらかに体調がよくなります。
◾呼吸法=体幹部の中の体操
体幹部の奥のパワーを引き出す身体意識「ベスト」
肩関節よりもっと深い、胸の中、背中の中のほうから腕をコントロール。もっと体幹部の内側、肩甲骨よりさらに内側のライン、洋服のベストの袖ぐりに沿ったラインを基準に、そこにあたかも大きな関節があるかのように腕を動かす。肋骨の内側のラインに意識が通って、脱力感とともに重い突きがスパッと。これがあると、体幹部の奥にある非常にふくよかな骨格やたくさんの筋肉といったものを使える。第三段階の身体意識。ベストが育つと、腕を上げても肋骨は逆に自由になり、肩甲骨も拘束から解放され、肋骨や肩甲骨のまわりの筋肉も柔らかく使える。肩甲骨が解放され、肩こりと縁がなくなる。
◾このように身体意識の概要が見えてくると、身体に存在する意識の働きが、いかに人間の能力に大きな影響を与えているかが理解できるのではないでしょうか。身体メカニズムを使いこなす意識。
◾ですから、私は意識であれば、センターや丹田の「恒常的にある」というあり方に応えられると考えました。つまり、センターや丹田は、そもそもが潜在意識、無意識の世界に形成された意識の空間的構造体なのです。
◾私は筋肉のこりによって骨と筋肉が一体化してしまった状態を「拘束」と呼んでいます。
私は、このように身体を固めることで育つ身体意識を「拘束的身体意識」と呼びます。これは人間を苦しめる悪しき身体意識です。ゆる体操や達人調整は、身心を苦しめている悪しき身体意識を解消し、身体の構造どおりの身体意識をとり戻す方法なのです。
◾身体意識(ホストコンピュータ)は体力、知識、技術、精神力(末端の具体的なことをする機能)を根底から支える